薄燈林

主に見た映画やアニメとかの感想をだらだらと

首:雑記

 首、面白かった。初たけしで緊張したけれど、ずっと楽しく見ていられた。初っ端から首の断面、一族郎党斬首で始まり、そこから首、首、首とバイオレンスだった。加瀬亮の信長も良かった。最近ではあまり見られない狂った信長、上司にしたくない戦国武将第一位みたいなやつ。半分はこの信長の為に観に行ったようなものだったのでとにかく満足ではあったと思う。

人によっては盛り上がらなかったという話もある。私も確かに面白かったとは思うが、感情のボルテージが跳ね上がるようなことは決してなかった。それは、たけしによる恣意的な演出の結果だと強く感じられる。

なぜならたけしはあれだけ厳しいエンタメ業界に長い間君臨し続けて、観客の心がわからない脚本を書けないはずはない。しかし簡単に得られる情動や興奮はこの映画にはない。代わりに首、流血、殺戮、バイオレンスそのもので相手の目を引き続けるようだった。

それは本能寺の変を超えた後でも変わらなかった。信長の死も、明智光秀の自刃でも、多くの死が積み重なった後では麻痺するように、それらは劇的なものから遠ざかる。

そして極めつけには秀吉は、武士が執着し、劇中で何度も強調されてきた首級前に、死んでいることが分かっているのなら、首なんかなくたっていいと、光秀の首を蹴飛ばす。

ここで話は終わる。たけしの前では、戦国武将の誇り、執着、天下でさえも皮肉である。皮肉は時としてコメディである。強烈な赤に彩られたコメディだったのだ。それは人々を楽しませる「お笑い」では無く、時にはそれを笑う観客すら刺す「コメディ」だった。

 

理解のしやすい物語は好まれる。沸き立つような感動や情熱、悲劇に流す涙、去り行く時代への哀愁もいい。私も当然好きだ。だが時には、冷たく乾いた笑いで愉しむのも乙かもしれない。